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DNAの展覧会鑑賞記録帳
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鑑賞日 2007年11月15日(木)
会 場 東京都美術館 
会 期 2007年10月10日(水)~12月24日(月)
入場料 一般1500円 大学1200円 高校800円
図 版 2500円

 今日、ひとつ年をとった。もともと誕生日に特別な思い入れがあまり無い。ましてやこの年になると、自分の年をあまり数えたくないものだ。
 今日は友人たちとの定例会で、いつもの場所でランチを食べながら日ごろ溜め込んでいた憂さを晴らし、散会後一人で展覧会場へ向かった。上野公園の大噴水を取り囲む木々はすでに黄色や赤に色付き、秋の深まりを感じさせている。上野公園の大噴水越しに東京国立博物館の本館を見るのが好きだ。今日のように穏やかな日には特に美しい。

1776年7月4日フィラデルフィアでアメリカ独立宣言がなされた。フィラデルフィアはアメリカ合衆国誕生の地といえる。1876年独立100周年を記念に開かれた、アメリカ初の万国博覧会での美術品展示の為に設計された建物が、翌年から美術館として使用されたのがフィラデルフィア美術館の始まりだそうだ。この美術館に所蔵されている作品の多くは個人コレクターからの寄贈品だそうだ。建国の地に立つ美術館に所蔵品を寄贈するのはコレクターとしても非常に名誉なことだったのだろう。
 さながら美術史の教科書のような展覧会だった。コローに始まりワイエスまで、19世紀~20世紀の有名な画家、彫刻家のオンパレードである。44作家全77作品を見終えたとき、19世紀~20世紀の美術史の流れを駆け足で走り抜けたような錯覚を覚えた。
 その中で、ひときわ輝いて見えたのは、ピエール・オーギュスト・ルノワールの4点だった。私の美術展デビューは1972年に開催されたルノワール展だった。初めて生で見た西洋絵画がルノワールだったことは、私にとってとても幸運だったと思う。ルノワールの絵は、明るく明快で、人の持つ命の輝きを手放しで賛美する絵だからだ。ばら色の頬をした少年少女、豊かな量感と輝く肌を持ち、柔らかく息づく女性の体から感じるのは、ただただ生きる喜びだ。ルノワールの絵は、私に絵とは美と喜びを教えてくれるものという強烈な刷り込みを与えた。
 今回出展されているルノワールの作品はとれもすばらしかった。『ルグラン嬢の肖像』は、清楚で愛らしい少女の肖像画だ。恥らうように画家から視線をはずしているが、その目元にも口元にも少女らしい好奇心が浮かんでいる。今にも画家に視線を合わせ、「ねえ、私のポーズはこれでいいのかしら?どんな風にお描きになるの?」と話しかけてきそうだ。首に巻かれた青いスカーフ、胸元に光る金色のロケット、肩のところにリボンがあしらわれた黒いエプロンが、少女の白い肌とふわふわと肩にかかる柔らかな髪をいっそう引き立てている。「アリーヌ・シャリゴの肖像」は彼の妻の肖像画だ。どれだけルノワールが彼女を愛したか、一目でわかる。彼はこの絵を生涯そばに置いていたという。長男ピエールを産んだ夏に描かれたものだというが、ふっくらと豊かなばら色の頬、まろやかでゆったりとした肩のライン、豊かな胸元、膝の上で重ねられたむっちりとした手。小さなつばの麦藁帽子にはピンク色の花が飾られ、額には栗色の巻き毛が無造作にかかっている。何よりその若妻の表情がすばらしい。夫に向けられたそのまなざしはやわらかく、暖かく、そして信頼に満ちている。
見ているだけで本当に幸せになれる。そして、「大きな浴女」。この絵こそ間違いなくこの展覧会の目玉作品である。なんという美しい絵なのだろう。現代は肉付きのいい女を否定する。だが、この絵を前にしたら、世界一のトップモデルと言えども、なんと貧相に見えることだろう。輝くようなやわらかい肌、溌剌とした丸い乳房、豊かに張った腰、はちきれんばかりの太もも。骨ばったところのひとつもないふくふくとやわらかい指先に掻き揚げられた明るく輝く豊かな髪は、女性の持つやさしさ、しなやかさ、暖かさを余すところなく表現している。見るものをいざなうように向けられた瞳はひたすら優しくて、おおらかで、慎ましやかだ。体を惜しみなく晒しながら、ひとつも媚がない。この体は命そのものであり、自然そのものだ。最後まで見終わって、もう一度、この絵の前に戻らずにはいられなかった。まさしくルノワールの傑作だと思った。もう一点「レース編みをする少女」は静けさの中に緊張感のある絵だ。一心に手元を見つめレース編みをする少女の表情は真剣そのもの。明るい色調の中に、手仕事に熱中する少女の息遣いが聞こえてきそうだ。ルノワールは晩年関節炎を患い手が不自由になってしまう。それでも、ルノワールはその死の直前まで絵筆を取っていた。ルノワールは心底描くことが好きだったのだと思う。
 今回の展覧会でもうひとつお勧めなのはジョージア・オキーフの「ピンクの地の上の2本のカラ・リリー」。画面いっぱいに描かれた2本のカラ・リリーの花は、微妙な色の諧調をもち、とてもなまめかしい。花とは植物の生殖器だ。新しい命を生み出すための器官をなぜこんなに美しいと感じるのか。クローズアップで花を見たとき、人はそれを美しいと思うだろうか。拡大された花弁の脈やおしべ・めしべのディテールは実はとても生々しく・時に猛々しくさえある。この絵はオキーフ自身が否定しているにも関わらずエロティックなものと解されている。花はもともとエロティックなものなのだ。彼女はただ花をあるがままに拡大して描いただけかもしれない。だが、忠実に描いたからこそ、人はそこに深いエロティシズムを感じてしまうのかも知れない。この絵もぜひ見て欲しい。
 会期はクリスマス・イブまで。流れを楽しむも良し、1点を楽しむも良しの展覧会だと思う。

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