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DNAの展覧会鑑賞記録帳
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鑑賞日 2009年6月6日(土) 
会 場 東京都庭園美術館
会 期 2009年4月16日(木)~ 7月 5日(日)
入場料 一般1000円、大学生800円、小中高生500円 
図 版 2500円
公式HP http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/catherine/index.html

18世紀は女性の世紀とも言われている。なぜか?オーストリアのマリア・テレジア、フランスのポンパドール侯爵夫人、そしてロシアのエカテリーナ2世が競い合ってヨーロッパの政治・経済・文化に大きな影響を与えているからだ。この三人の女性はそれぞれに個性的で実に面白い。マリア・テレジアは当時の王族としては奇跡的な恋愛結婚をし、夫一筋で16人も子供を産んでいるし、ポンパドール侯爵夫人はルイ15世の公的寵妃(公が認める愛人!!いかにもおフランス~。)だし、エカテリーナ2世はぼんくらな夫ピヨートル3世を追放して自らが帝位につき、寵臣を愛人にしていたっていう人なのだ。

この3人の女性たちは学校を設立したり、産業の振興育成に力を尽くしたり、なかなかのやり手。更に当時各国間で断続的に行われていた戦争を、この3人は何とか押さえ込む事に成功する。所謂ペチコート同盟ってやつだ。

この頃の外交は今の外交と大分趣きが違ったらしい。当時、国力はどれだけ文化水準が高いか、成熟度が高いかという事で計られたらしい。だから外国からの客人をもてなすときにはそりゃあもうお祭り騒ぎだったのだ。大掛かりな仕掛けを作ってのバレエやオペラ、豪華な飾り付けをした食卓に美食を並べた晩餐会、華やかな衣装での舞踏会。これらは単なるお接待ではなく、まさに示威活動だった!素晴らしい舞台は弾道ミサイル、素晴らしい磁器食器で供される食事は装甲車、煌びやかな舞踏会は戦闘機、のようなものだったのだ!

エカテリーナ2世はもともとはドイツの田舎の片田舎の貴族の娘だった。母方の又従兄(傍系6親等に当る。祖父母は兄弟姉妹の孫世代どうし。)のピョートル大公(皇太子)と結婚しロシア大公妃(皇太子妃)となった。エカテリーナさん、肖像画を見ても、いかにも「私はやります!!」という力強い意思を感じさせるお方。実際、ぼんくらな夫をさっさと押しのけて、女帝になるや、法体系の整備や福祉教育政策に力を入れ、いっきにロシア帝国の文化的政治的地位を押し上げたのです!

今回の展示は、そのエカテリーナ2世が所有していた四大ディナーセット、つまり、文化水準を競い合う場面での武器ともなったものなのだ。
晩餐会は戦場なんです!貧相な武器では相手に舐められてしまう。一方、自国窯の素晴らしい磁器のディナーセットを贈ることは、外交の駆け引きの手段ともなったのだ。ヨーロッパで磁器が作れるようになったのは18世紀になってから。自国で磁器生産が出来るって現代で言えば超最先端技術を持っているっていうことだったわけです。

だからこそ、エカテリーナ2世は当時の技術を競っていた各国の名窯にディナーセットを作らせ、プロイセン王フリードリヒ2世はディナーセットを贈ったのだ。ディナーセットには食器だけでなく、様々な食卓の飾りつけ品も含まれている。宮廷の食卓は単なる食事の場ではない。そう考えると、当時の晩餐会というのは、なかなか気骨の折れるものだったのではないだろうか。

展示品は食器好きさんにはたまらないです。4つのセットは以下の通り

ベルリン王立磁器製作所で製作された《ベルリン・デザート・セルヴィス》これはプロイセン王フリードリヒ2世が露土戦争の戦勝祝いに贈ったもの。

セーブル窯の《カメオ・セルヴィス》寵臣ポチョムキン公(愛人でほとんど夫同然)の為に注文されました。当時流行り始めていた新古典主義が反映されたカメオ柄と明るい青が特徴です。

ウェッジウッドの《グリーン・フロッグ・セルヴィス》これは彼女のお気に入りの離宮で使われたもので、当時のイギリス趣味(アングロマニー)の流行にマッチし、更に、フリードリヒ2世が《ベルリン・デザート・セルヴィス》を注文した時に、プロイセンの宮廷・領地・公園の風景画を描いた別のセットを自分用に注文していましたことに対抗するように、イギリスの風景画を描かせている。緑色の蛙の紋章がついていて、ユーモラスです。

ロシアも勿論王立の磁器製造所を持っていました。《聖ゲオルギー・セルヴィス》はモスクワ近郊のフランツ・ガルドネルの民間工場で作られた後、サンクトペテルブルク帝室磁器製作所で追加作品を制作されたもの。エカテリーナ2世は自分の支配体制を支える軍人達を大切にしていました。ロシアの最高位の勲章は「聖ゲオルギー勲章」、「聖アレクサンドル・ネフスキー勲章」、「聖アンドレイ勲章」、「聖ウラジミール勲章」と4つあり、この勲章を授与された者の祝宴には必ず出席していたそうです。「勲章セルヴィス」はこの祝宴で用いられていました。他のセットに比べるとちょっと素朴な感じがあります。


単に展示ケースに収められたものだけではなく、実際にテーブルにセッティングされた形で展示されています。日本の宮家の邸だった建物の中で、宮廷で使われた食器が展示されていると言うのは、なかなかオツな演出です。

会期はもう少しありますし、美術館の庭を散策するのもたのしいです。
一粒で三度おいしい展覧会と言えるでしょう。
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