忍者ブログ
DNAの展覧会鑑賞記録帳
[62]  [61]  [60]  [59]  [58]  [57]  [56]  [55]  [54]  [53]  [52
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

鑑賞日 2009年6月21日(日) 
会 場 横浜美術館
会 期 2009年6月12日(金)~ 8月31日(月)
入場料 一般1400円、大学高校生1100円、中学生800円 
図 版 2500円
公式HP http://www.france19.com/

電車の中でアングルのヴィーナスとマネのカルメンの絵が並べられたポスターを見かけて、面白そうだと興味を引かれた。ネットで検索をかけたところ、19世紀のフランス絵画の真実に光を当てるという、野心的な展覧会であることがわかった。これはいくしかない。しかも、今日はこの展覧会の監修者、東京大学教授、三浦篤氏の記念講演があると言うではないか!!ますますもって行くしかない!

日本で西洋絵画で知っている画家の名を上げてくれと言ったら、多分、ルネッサンス期か、印象派の画家の名が真っ先に上がるだろう。ちょっと美術に興味があったりすると、レンブラントやフェルメール、ルーベンスあたりも出てくるだろう。しかし、そのくらいまでが限界。まあ、20世紀の画家だって、ピカソ、モジリアニ、マチス、ダリとかではないだろうか。

鎖国をしていた日本人が本格的に西欧諸国と交流を持ち始めたのは、ペリー来航(1853年)以降である。もちろん、鎖国をしていたと言っても、日本の上層部はちゃんと情報収集を行っていて、世界情勢についてある程度の理解はしていたようだ。それに、日本から輸出された工芸品はヨーロッパ諸国で珍重され、両者が全く隔絶されていたわけではない。
それでも、実際に人と物が大量に行きかうようになったのは、明治維新(1868年)後である。要するに、日本人が実際に生きた人間とともに受け入れることになったヨーロッパ文化は、19世紀後半のものだったのだ!

その割には、日本でなぜ19世紀アカデミズム絵画はあまり知られていないのか?このところバロック・ロココ・新古典主義あたりの美術に凝ってきた私の感想としては、ずばり、日本人には西洋絵画の本流の素養がなかったからだと思っている。西洋絵画の本流は長い歴史に裏付けられたキリスト教やギリシア・ローマ神話・古典文学などの下地がなければ読み解くのが難しい。絵画に描かれた主題そのものがわからなければ、その絵を理解し楽しむことは難しい。そして、もうひとつ、文化の成熟度が国家の力を表すバロメーターとして捕らえられているヨーロッパに比べ、日本では文化水準で国の優劣を競うという考えがなかった。

明治以降官展が開かれるようになったが、日本で国家権力が絵のコンクールなんて開いたことはない。狩野派のようなお抱え絵師というものはいたけれども、国家事業として優れた絵師を育てようという発想はなかった。日本の歴史の中で政治と絵画が関係したとすれば、平安時代の貴族文化のなかの絵合わせぐらいなものじゃないだろうか?それだって、日本の宮廷内だけのことであり、他国の宮廷と張り合うためではない。

日本で絵画の楽しみといったら私的な空間においてであって、公的空間での絵と言ったら障壁画くらいか?壮麗な宮殿をこれでもかと国家の威信を表現するような絵画で飾り立て、おらが国はこんなにすごいんだぞ!!といわんばかりに主張することを目的とした絵なんて、日本にあっただろうか?あったとすれば、桃山時代くらいかなあと思う。朝鮮通信使との交流とかを見れば、まるでないわけじゃないけれど、ヨーロッパほどの熾烈さは感じられないし・・・・。

印象派の絵は国家の威信なんてまるっきり背負っていない。美しい自然や市民生活を描いた小さな絵がほとんどだ。そして印象派自体がジャポニズムの影響を受けている。

そう考えると、19世紀絵画の本流について、日本人はほとんど知らなかったといえるだろう。今でこそ19世紀以降の新しい絵画の歴史を作ったように思われている印象派だけれども、連綿とヨーロッパ絵画の歴史を受け継いできたアカデミスムなくしてありえたのだろうか?

その問いに、今回の展覧会はひとつの答えを与えてくれたような気がする。古い物を否定するのは簡単だ。しかし、豊かな土壌なくして花が咲かないように、積み重なった歴史の上にこそ、新しい物が芽生えてくるような気がする。否定されてもなお、優れたものはやがて再評価され、その価値を認められていく。音楽でも文学でもそれは何度となく繰り返されている。

今回の展覧会はそういった意味でとても見ごたえがあり、面白いものだった。最近、西洋絵画の主題を解説した本などをよく見かけるようになった。日本人と西洋絵画の距離が近くなった証拠かもしれない。単に画面描かれた像を楽しむ事から、主題を理解し、それをどのように表現しているかまでを含めて楽しむということを求めるようになってきたのだろう。

本当に最近の展覧会は面白い企画がどんどん出てくる。これからも楽しみは続く!!




PR
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
プロフィール
HN:
DNA
性別:
非公開
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]